「コンピュータ囲碁フォーラム」 設立趣意書  囲碁は二千年の歴史を有し、広く親しまれてきたゲームである。その奥は深く、 今なお、新手、新戦略が考え出され続けている。  コンピュータは、五十年程前に発明されたばかりの新しい道具であるが、その 硬軟両面の進歩は著しく、三十年程前に初めて作られたコンピュータに囲碁を打 たせるプログラムも、当初は三十級程度の棋力であったが、この数年の進歩は著 しく、五級程度のプログラムが現れるに至った。  AIの初期、コンピュータチェスがAI研究全体の牽引車であった。コンピュータ チェスの研究の中からα-β法、反復深化法など、様々な成果が創出された。チェ スがグランドマスターレベルに達した現在、AI研究の次なる牽引車として囲碁が 注目されつつある。  世界規模でのデータベースの整備、メーリングリストによる情報交換、インター ネット上での碁会所の開設など、コンピュータ囲碁に関する研究環境は、この数 年急速に整備されてきている。  いまや、強いコンピュータ囲碁を作るという夢のもとに、囲碁に関する様々な 新しい研究・開発を推進すべき時期に来ている。しかし、現在なお、次々と新し い戦略が創出され続けている囲碁を解明することは難しい。現在のコンピュータ 囲碁の多くは単独の開発者によって支えられているに過ぎず、なかなか級位を抜 け出るに至っていない。  コンピュータ囲碁は、囲碁そのものの分析、工学的な問題解決手法の開発、認 知科学的知見など様々な方面の成果を必要としている。  しかるに、現状は、棋士は感覚的・経験的に研究を進め、研究者は論理的研究 の域を出るに至っていない。集約されるべき知識が分離・分断されたままである。 ここに各方面の英知を結集することの必要性を痛切に感じ、コンピュータ囲碁フォー ラムを設立する。  コンピュータ囲碁フォーラムは、強い囲碁プログラムを作ることを目的とした プロジェクトではなく、棋士、囲碁研究者、コンピュータ囲碁プログラム開発者、 コンピュータ囲碁研究者などが各々の立場から各々の目標を達成しつつ、お互い に情報交換、技術交流、協力することにより、結果として知見を蓄積し、強いプ ログラム作成への道を見出すための学術的・非営利的研究団体である。  したがって、コンピュータ囲碁研究者・開発者は研究成果、開発結果あるいは 研究プランの広範囲な公表を、囲碁研究者は囲碁の系統的な整理並びに新戦術の 検討を、棋士は経験則の理論的根拠付けなどを、各々の立場を尊重しつつ行うこ とを最大の目的とする。  コンピュータ囲碁フォーラムの具体的な活動は以下の通りである。   ・コンピュータ囲碁に関する情報交換   ・コンピュータ囲碁の研究環境作り   ・コンピュータ囲碁プログラムの開発支援   ・コンピュータ囲碁のための諸規定の設定   ・コンピュータ囲碁の普及   ・コンピュータを利用した囲碁の効果的学習法の研究   ・その他、本フォーラムの目的に合致した諸活動  囲碁の国際性にかんがみ、日本国内に限定することなく海外からも広く会員を 募り、国際的にも活動し、将来的には学会に発展することを目指す。 上記趣旨に御賛同下さる方の加入をお待ちしています。 1995年11月5日 発起人一同