目的
アジアで生まれ、世界で広く親しまれているゲームの一つとして「囲碁」があります。 碁盤と碁石があれば、言葉は通じなくとも、世界中のプレーヤーと対局することができます。 そういう意味で、囲碁は世界の公用語であると言えるでしょう。
ゲームを題材にした研究の中で、コンピュータ囲碁の開発は特に難しいとされてきました。 広大な盤面による合法手の多さと、説明の難しい石の強弱や死活などの複雑な局面評価は、様々なプログラム開発の試みを拒絶し続けてきました。
しかし、2006年に突如現れたモンテカルロアプローチは、一つの大きなブレークスルーをもたらしました。 この手法が現れて、コンピュータ囲碁は驚くべき速度で進歩しています。 様々なエキシビション対局で、置き碁とは言え、プロ棋士に勝つプログラムが現れるなど、5年ほど前にはコンピュータ囲碁開発者の誰もが想像出来なかったような飛躍的進歩を遂げています。
ゲームを題材とした研究の歴史を振り返ると、チェスを題材にして、人工知能、 認知科学、探索、パターン認識、データマイニング、最適化技術等々、実に様々な分野の研究が活性化したという歴史があります。 それが囲碁を題材にして、今まさに起きようとしています。
この分野の活性化のためにも、コンピュータ囲碁大会を開催することは、非常に有意義なことであると考えます。 毎年開発される新しい技術の進歩を測るベンチマークとして、大会を開催し、棋力の進歩を記録として残していくことは、学術的にも重要な意味があります。
本大会は、電気通信大学の「エンターテイメントと認知科学研究ステーション」が主催となり、「コンピュータ囲碁フォーラム」の協力を得ることにより、2007年より開催されています。 研究ステーション主催の大会ということもあり、単に強さのみを競うものではなく、学術的、技術的交流のある大会にしていきたいと考えています。 そのため、近年ネットによる大会も増えている中、敢えて開発者が一同に会して、互いのプログラムについて技術的に交流できる場としても機能していきたいと考えます。
また、コンピュータ囲碁の技術の先には、それを使い対戦する「人間」の存在を忘れることは出来ません。 コンピュータ囲碁の技術も人にとって役に立ち、人の心を豊かにする技術である必要があるでしょう。 本大会では、強さだけを競うのでなく、新しい技術の創出やインターフェースなどに工夫を凝らしたエンターテイメント性の高いプログラムも積極的に推奨していきたいと考えています。 昨年までの「プレゼンテーション賞」は名称を変更し、「独創賞」という形で、強さ以外の新しい次元に尖ったプログラムを表彰していきます。 是非、参加者の皆さんの手で本大会を盛り上げていただき、本大会を通じてコンピュータ囲碁を取り巻く新しい技術を発展させていきたいと祈念しています。
2011年10月26日
大会実行委員会 委員長 伊藤 毅志(電気通信大学)