大会目的

目的

 アジアで生まれ世界で広く親しまれているゲームの一つとして囲碁がある。 碁盤と碁石があれば、言葉は通じなくとも、世界中の囲碁プレーヤーと対局 することができる。まさに、囲碁は世界の公用語である。

 欧米では、チェスを題材に強いプログラムを作るという目標を掲げ、様々 なソフトウエア技術を進歩させてきたという歴史がある。チェスを題材にし た探索に関する研究だけで、百本以上の論文が発表され、この研究で得られ た知見は、計算機技術の分野で広く応用されている。遺伝子研究になぞらえ た「チェスは人工知能のミバエである」という言葉は、まさにチェスという 題材が人工知能分野に与えた影響力を表している。

 コンピュータに囲碁を打たせるという研究も、1960年代頃から 始められて きた。しかし、40年以上経った今でも、アマチュア級位者レベル からなかな か脱することができていない。これは、囲碁は19×19とい う広大な盤面を有 するゲームであるため、チェスで行ったような探索主導型のシステムでは、す ぐに組み合わせ爆発を起こしてしまうからである。また、チェスや将棋の ように、駒の損得や玉を掴まえればよいというような明確な目標がなく、石 の効率や強さといった局面の機微が一手毎に微妙に変化するといった囲碁特 有の難しさにも起因している。  そのため、強いコンピュータ囲碁を作るには、人間の強いプレーヤーがど のように考えて、局面を理解しているのかといった認知科学的な研究 や、近 年注目を集めているモンテカルロ法などの新しい発想のプログラミング技術 の進歩などを複合的に組み合わせることが必要となるであろう。

 このような視点から、コンピュータ囲碁はこれからの情報処理技術を支え る新しい基盤的研究になりうると考える。実際、コンピュータ囲碁は、人工 知能の研究課題としてだけではなく、認知科学、探索、パターン認識、デー タマイニング、高速化プログラミングなど、様々な技術を含んだ深遠な課題 である。

 本分野の活性化のためにも、コンピュータ囲碁大会を開催することは、非 常に有意義なことである。これまでにも、コンピュータ囲碁の国際大会は、 数多く行われてきたが、資金面などの問題などから、なかなか長続きする大 会はなく、現在のところ国内外で開催されている大規模な国際的コンピュー タ囲碁大会はない。毎年開発される新しい技術の進歩を測るベンチマークと して、大会を開催して、棋力の進歩を記録として残していくことは、学術的 にも重要な意味を持つだろう。

 本大会は、電気通信大学の「エンターテイメントと認知科学研究ステーシ ョン」が中心となって、「コンピュータ囲碁フォーラム」の協力を得ること により開催する運びとなった。大学主体の大会であるので、学術的、教育的 側面を持った大会にしていきたい。本大会を通じて多くのコンピュータ囲碁 開発者の国際交流ができるような様々な企画も実現していくつもりである。 また、本大会に関連して、当該分野の新しい参加者を広げる意味でも、コン ピュータ囲碁講習会などの普及活動も定期的に開催し、情報処理技術の発展 や教育にも貢献していきたい。

大会運営委員会 委員長 伊藤 毅(電気通信大学)